小笠原諸島が2011年6月に世界自然遺産に登録される前、小笠原諸島の貴重な固有種であるアカガシラカラスバトがたった40羽程度しか生き残っておらず絶滅寸前だった。この他にカツオドリやオオミズナギドリなどの海鳥たちの繁殖が無くなっていたり、オガサワラオオコウモリや母島メグロなどの生息数が減っていた。このことは、島の山野に生息し、増えすぎたノネコ(野良猫ではない)が、これらを捕食したことが原因であった。
そこで、この猫問題を解消するために、環境省、林野庁国有林課、東京都小笠原支庁、小笠原村、小笠原村教育員会、NPO小笠原自然文化研究所、小笠原自然観察指導員連絡会、小笠原観光協会、小笠原海運株式会社、東京都獣医師会、島のボランティアが結集して「小笠原ネコに関する連絡会議(ネコ連)」が2006年に設立され対応することになった。
東京都獣医師会は、2008~2016年に動物派遣診療団を派遣し、島民が飼養する犬や猫の診療の他、この猫問題の解消に向けてペットの飼い方などを教え、ネコ連とともに飼い主だけでなく島民にも説明しました。私は、この派遣団の一員として6回参加しました。
この猫問題解消には、ノネコを捕獲して殺処分するのではなく、東京都獣医師会会員のもとに搬送し、健康チェックと順化してから新しい飼い主に譲渡することです。現在950頭以上が里親のもとに引き取られ可愛がられています。小笠原島ねこは、人によく慣れるのが多いように感じています。このことは、親猫が人からいじめられていないので、子猫に人は危険動物だと刷り込み教育をしていないからと勝手に判断しています。
当院も、小笠原の島ねこの飼い主を募集しています。島ねこ情報は、捕獲日、父島か母島か、性別、毛色、体重等とともに画像がメーリングリストに提示され、それを見て希望するネコを選び、搬送(小笠原海運が無償で)してもらいます。院内で、健康チェックと人に馴らしてから、新しい飼い主を探して譲渡しています。
島のノネコは、離乳後まもなく独り立ちし、獲物(鳥、ネズミ、昆虫など)を捕食して生きていたが、空腹に耐えかねて捕獲箱の餌につられて捕まったものです。この可哀そうなノネコに安住の場を与えてやってくださるようお願いいたします。
この猫問題の対応方法は、小笠原だけで行われており、私は小笠原方式と勝手に言ってます。世界的には、自然保護や生態系保全のため、このような事例ではネコは害獣と位置付けられ殺処分されているのが現状で、小笠原は例外となっています。
沖縄のヤンバルクイナ、奄美大島のアマミノクロウサギなどもノネコに捕食されている状況です。ノネコが捕獲されているので小笠原方式ができればいいなと思いますが、多大な予算、人材、何よりノネコの引き取り先が沢山いなければなりません。県外搬送すれば可能ですが、搬送費を含む体制の整備がない状況では、個人的な取り組みに期待するしかない状況です。国は、世界自然遺産の登録を目指しているので、この問題の解消に向けての体制整備を図っていただきたい。